静岡大学「InSPIRE」の日印研修を実施
2026年9月17日から19日まで、静岡大学の学生4名とインドのSRM科学技術大学の学生5名による日印研修が、静岡県川根本町で行われました。静岡大学が推進する日印共創人材育成プログラム「InSPIRE(India–Shizuoka Partnership for Innovation, Research and Education)」の一環として実施されたもので、学生たちはゾーホージャパン川根本町サテライトオフィスを拠点に、地域に根ざした多文化共生(多様な文化的背景を持つ人々が地域で共に働き、暮らすこと)について学びました。本記事では、研修初日に行われたオープニングセレモニー、2日目の探求学習、そして最終日にゾーホージャパンのインド人社員を交えて行われた座談会の様子を中心に紹介します。
ゾーホージャパンは2017年、静岡県川根本町にサテライトオフィスを開設しました。本社をインド・チェンナイに置くグローバルテクノロジー企業であるZoho Corporationの日本法人が、都市部から離れた中山間地域にオフィスを構えたことは、当時大きな注目を集めました。開設から10年近くが経ついま、同オフィスにはインド本社から出向・赴任したインド人社員を含む複数の社員が勤務し、地域で生活しながら働いています。
開設以来、社員たちは、地域の祭りや行事への参加、町民との交流を重ねてきました。近隣の川根高校とは、ICTキャンプの実施(Zoho Schools: Zoho Corporationが運営する社内大学 への短期留学)など、教育や国際交流に関わる取り組みも続けてきました。
インド発の企業が地域に根を下ろし、多様な文化的背景を持つ人々が共に暮らす環境を築いてきたこと、その積み重ねが、静岡大学の「InSPIRE」にとって、日印の学生が多文化共生を実践的に学ぶ場としてふさわしいと評価され、今回の研修の受け入れにつながりました。
InSPIRE(India–Shizuoka Partnership for Innovation, Research and Education)は、静岡大学がインドの連携大学、県内の自治体・企業と組む連携体制です。産業界の実学的知見を取り入れた教育を通じて、日印の産業高度化と地域社会に貢献する高度人材を育成し、その地域定着までを一貫して支援することを目指しています。運営は、静岡大学国際連携推進機構(SUOIC)が担っています。
2026年8月には、静岡大学の学生14名がインド・チェンナイのZoho本社を訪問し、現地での学びを深めました。今回9月の川根本町での日印研修は、その学びを日本の地域社会へとつなぐ機会として位置づけられています。
初日の9月17日、学生たちはゾーホージャパン川根本町サテライトオフィスに集まり、研修のオープニングセレモニーに臨みました。会場には、静岡大学とSRM科学技術大学の学生・教職員に加え、川根本町、川根高校、ゾーホージャパンの関係者が顔をそろえました。
セレモニーでは、ウェルカムスピーチや挨拶を通じて、各関係者から学生への歓迎の言葉と、3日間の研修への期待が語られました。静岡大学 日詰学長からは「ゾーホー様がビジネスでチェンナイと静岡を結び、SRM科学技術大学と静岡大学が学術研究・教育でチェンナイと静岡を結ぶということで、これらの連携の上に今回の川根本町での国際共修インターンシッププログラムが実現したことは、大変喜ばしい。川根本町はすばらしい森林資源に恵まれ、本研修のテーマとするサステイナビリティ・カーボンニュートラルを学ぶのにこれほどふさわしい場所はないと感じている。今回、日本とインドの学生が、ここ川根本町での共修活動 を通じて、ゾーホー様が地域に深く根差した事業をいかに築いてきたかを学ぶとともに、この地域が直面する現実の課題──それは、日印両国の地方が共通して抱える課題でもあります──に目を向けていくことは大変大きな意義がある。」といった趣旨のメッセージがあり、産学官が連携してこの機会をつくり上げてきたことへの思いが述べられました。参加した学生たちも、緊張した面持ちながら、これから始まる共修への期待をのぞかせていました。
式典に続く記念撮影のあと、あらためてゾーホージャパンから川根本町での拠点運営や地域との関係について紹介があり、続けて川根本町からも、地域の特徴や町の取り組みについて説明がありました。産・学・官それぞれの立場から、学生を迎え入れる姿勢が重ねて示された形です。
夕方には、川根本町の町内散策やインド発祥のボードゲーム「カロム」を通じた交流の時間も設けられ、日本とインドの学生が打ち解け合うきっかけとなりました。初日は、その後3日間にわたる共修の出発点として、日印の学生を地域全体で迎え入れる象徴的な場面となりました。
研修2日目の9月18日には、川根本町の林業と、川根高校生の探究学習をめぐるプログラムが行われました。町の産業振興課林業室からは、展望台まで山道を歩きながら、後継者不足や山林の境界が不明な相続問題、担当職員の異動でノウハウが蓄積されにくいことなど、林業が抱える課題について説明がありました。続いて川根高校から、Jクレジットの取り組みやリモートセンシング技術の林業への活用といった高校生のアイデアが紹介され、SRM科学技術大学の学生からは、2070年のネットゼロを掲げるインドの取り組みや、衛星・AIを活用したカーボンニュートラル政策が語られました。
午後には、川根高校に移動し、高校生が自身の探究活動を英語で発表する場も設けられました。高校生と静岡大学の学生・SRM科学技術大学の学生が1つのテーブルを囲み、高校生が発表してアドバイスを受ける形式で行いました。高校の魅力発信に取り組む生徒にはSNSに加え校内掲示の提案が、川根の食材で新レシピを考える生徒にはインド料理とのかけ合わせが提案されるなど、大学生ならではの視点が加わりました。静岡大学の学生は、高校生の思いを英語でインド人学生に伝え、質問も分かりやすく橋渡しする役割を担いました。
研修最終日となる9月19日、学生たちは再びゾーホージャパン川根本町サテライトオフィスを訪れ、同社のインド人社員数名を交えた座談会に臨みました。学生は少人数のグループに分かれ、社員一人ひとりと膝を突き合わせて意見を交わす、3時間に及ぶ濃密な時間となりました。
話題は、インド発の企業で働くことのやりがいや、日本での仕事・生活を通じて感じたことなど多岐にわたりました。なぜZohoに入社し、なぜ日本へ、そして川根本町へと赴任することになったのか。社員一人ひとりのキャリアの歩みに、学生たちは熱心に耳を傾けました。日本とインドでは、仕事の進め方や意思決定のスピード、上司と部下の関係性など、企業文化に違いがあることも共有され、双方の学生にとって新たな気づきとなったようです。
あるインド人社員は、都市部を離れ、川根本町という地域に暮らしながら働く中で感じた住民とのつながりについて振り返りました。地域の行事に顔を出すうちに顔なじみが増えていったこと、言葉や文化の違いを越えて受け入れてもらえた実感があることなど、地域に根ざして働くことの手応えが語られました。
学生からは、日本での暮らしや将来のキャリアに関する率直な質問も相次ぎ、社員はそれぞれの経験を交えながら丁寧に答えていました。日本人学生、インド人学生、そしてゾーホージャパンの社員という三者三様の立場から、それぞれが気づきを共有する時間となりました。言語や文化の違いを越えて協働するために大切なことは何か。地方で暮らしながらグローバルに働くとはどういうことか。海外での経験を将来のキャリアにどう生かすか。座談会は、教科書だけでは得られない、実践的な学びの場となりました。
3日間の研修を終え、学生たちはそれぞれに手応えを口にしました。
静岡大学の学生は、川根本町での滞在やゾーホージャパンの社員との対話を通じて、多文化環境で働くことへの理解が深まったと振り返りました。実際にインドから来日した社員と顔を合わせて話したことで、多様な文化的背景を持つ人と働くイメージが、これまでより具体的になったといいます。
SRM科学技術大学の学生は、日本の地域社会に身を置きながら学ぶ経験が、今後の学びやキャリアを考えるうえで貴重な機会になったと話しました。都市部ではなく、川根本町のような地方の暮らしに触れられたことも、印象に残った点の一つに挙げています。
受け入れ側として研修を支えた関係者からは、日印の学生が地域の中で共に学び合う今回の取り組みへの評価とともに、今後への期待が語られました。学生同士、そして学生と地域社会との対話の積み重ねが、次の交流や連携につながっていくとの見方も示されました。
ゾーホージャパンが川根本町で築いてきた地域との関係は、今回、日本とインドの学生が共に学ぶ場へと広がりました。インド発の企業、地域、大学が連携することで、多文化共生を実際の地域社会の中から学ぶ機会が生まれています。静岡大学とゾーホージャパンは、「InSPIRE」を通じた連携を今後も継続し、川根本町との関係を生かしながら、異なる文化や価値観を持つ人々が学び合う機会を支援していきます。